佐々木紀彦(2013)『5年後、メディアは稼げるか』
5年後、メディアは稼げるか
東洋経済オンライン 佐々木紀彦氏
序章 メディア新世界で起きる7つの大変化
- 紙が主役→デジタルが主役
- 文系人材の独壇場→理系人材も参入
- コンテンツが王様→コンテンツとデータが王様
- どの記事がどんな属性の人に読まれたか?が重要
- 個人より会社→会社より個人
- 媒体をまるごと読むという習慣が薄れ、読者は各媒体をつまみぐいしながらニュースを消化する
- 「A貴社の記事を読む」という志向に変化
- これは正直言いすぎだと思うが、まあ個のちからの重要性はあがるんだろう。
- 記者・編集者は本業の実力を前提にしつつ、ブランド戦略が不可欠になる
- 平等主義+年功序列→競争主義+待遇はバラバラ
- 「ページビュー至上主義に陥れば、軟派な記事ばかりがあふれ、ジャーナリズムが衰退しかねません」
- 書き手はジャーナリストのみ→読者も企業もみなが筆者
- 編集とビジネスの分離→編集とビジネスの融合
1. ウェブメディアをやってみて痛感したこと
東洋経済オンラインは、PV10倍をなぜ達成できたか
- 紙の編集部と組織、コンテンツ、ブランドを切り離した
- デジタルは紙の従属物という意識から離れる必要
- ウェブ独自の記事を充実させるため、新連載を50個スタートした。外部著者も。
- 30代をターゲットにした
- 「新世代リーダーのためのビジネスサイト」
- ユーザー第一主義を徹底した
- 短期的な利益よりもユーザー数やPVの増加を重視する
- ユーザー層拡大のために徹底的にオープンに。すべての記事をタダで読める。ヤフーサイトへの配信を劇的に増やした。
- 紙の編集部と組織、コンテンツ、ブランドを切り離した
速報よりもクオリティの高い第2報を目指す
タイトルが10倍重要
- その後も、うつろいやすい読者の気をひくために「ウェブは感情、紙は理性」「余韻より断言」などの提言がされる
本は残る
2. 米国製メディアは稼げているのか
この章は事例列挙
NYT新会長の成長戦略
- デジタル、グローバル展開、動画コンテンツ、ブランドエクステンション、イベント
3. ウェブメディアでどう稼ぐか?
- メディア機能の3つの機能
- コンテンツを集める、創る機能(調達・生産)
- コンテンツをパッケージ化する機能(編集・統合)
- コンテンツを読者に届ける機能(流通・販売)
- 4象限 PV大小APRU大小
- APRUは(1人あたりの収益)。
- PV かつ APRUをめざすのが理想だが至難の技
- 収益力重視なら、ニッチ領域の読者を満足させて高収益を保つ戦略に出るのがよいだろう
- 8つの稼ぎ方(以下すべて引用書き出しpp.121-122)
- 広告:ウェブサイトの主軸となる収益モデル。バナー、テキスト、メルマガ、タイアップ広告に加え、最近はブランドコンテンツと呼ばれる新商品が米国で大ブーム。
- 有料課金:コンテンツ閲覧に対する課金が中心。一定数のコンテンツは無料で見せ、上限に達したら課金する「メーター制」が世界中で主流になりつつある。
- イベント;セミナー(リアルとオンライン)を開催し、参加料、スポンサー収入を得る。FTは年間200のイベントを開催し、合計1・7万人を動員している。
- ゲーム:英国のタブロイド紙ザ・サンが運営するオンラインビンゴゲームや、ニューヨーク・タイムズのクロスワードパズルなどがある。会員収入で稼ぐモデル。
- 物販:「ほぼ日刊イトイ新聞」が代表例。『ほぼ日手帳』の2012年版は46万冊の販売を記録。「ほぼ日」を運営する糸井重里事務所の売上高は28億円、純益は3億円に登る。
- データ販売:大学ランキングで知られる『USニュース&ワールド・レポート』誌(2010年に紙から撤退)はデータをパッケージ化し、各機関に販売している。
- 教育:ワシントン・ポストは傘下の大学・大学院予備校カプランで教育事業を展開。ノルウェーの新聞社シプステッドはダイエットをネットで指導する「ウェイトクラブ」を運営。
- マーケティング支援:デジタル分野のマーケティングについて企業にコンサルティングするサービス。主な対象は、地域の中小企業。月額定額が主流。
- なぜネット広告は盛り上がらないか
- 紙に比べて広告単価が低く、成長力にもがけりが見えてきている。
- メディアが販売する広告には、バナー広告、テキスト広告、メルマガ広告、記事広告がある。
- 最大シェアはバナー広告。クリック率は減少傾向。
- 売りけれなかったバナー広告はアドネットワークで売買。
- 正規に販売する場合と比べ、単価は10分の1以下になることもある。PVあたりの広告収入はせいぜい0.1~0.3円というところ。
- Googleアドセンスのようなアドネットワークに依存すると泥沼の値引き地獄に引きずり込まれてしまう。
- どうすればネット広告は儲かるのか
- 有料化の3つの条件
- 『イノベーションのジレンマ』著者が提言する3つの策:
- 社内にデジタル時代に適合した新組織を立ち上げる
- 既存の組織からスピンアウト(分離独立)した新しい組織を立ち上げる
- デジタル時代に適合した組織を買収する
4. 5年後に食えるメディア人、食えないメディア人
これから求められる競争とは、読者を向いた競争です。...。「この大事なテーマを、どう料理すれば読者にうまく届くだろうか」を考え抜いた上で、どう面白く打ち出せるかの競争です。
記者の価値が下がり、編集者の価値が上がる
ウェブ化により情報量は爆発し、これまで記者が独占していた記事作成の領域にブロガーなどがなだれ込んでくる。特に事実関係だけを記した速報記事の価値は落ちる。
広告主がビジネス、コンテンツの両面で力を増す以上、媒体側の広告担当には、紙の時代とは比較にならないほどの能力とセンスが求められます。単なる営業力だけでなく、コンテンツの企画力、アドテクノロジーへの造詣、紙やイベントとパッケージ化した販売戦略など、あらゆることに精通しなければなりません。複数の領域をまたぎ、つなげるという点では、編集者の素養とも重なります。つまり今後は、広告担当者の"編集者化"が進むのです。実際、編集と広告の担当を行き来するようなケースも増えてくるでしょう。
次世代ジャーナリストの条件
世代交代について
...しかし、組織の内外において、30代以下の世代が衝突覚悟で「創造的破壊」を仕掛ければ、5年後には、今とはまったく異なったメディア新世界が広がっているはずです。そこで大事になるのは、攻守の使い分けです。すべてを「対立構造」で語り、破壊に躍起になるだけでは、いらぬ反発を受け変化のスピードが遅くなります(私も注意します……)。しかも、「創造」なき「破壊」は単なるカオスを生むだけです。いらぬ血を流さないためには、ワクワクするような将来へ向けたビジョンを語らなければなりません。楽しいストーリーは、世代を越えたサポーターを生み出します。まずは、前向きになれるような明るいストーリーを創り、語り、味方を増やす努力を最大限行う。ただ、それでも抵抗する人はやむなく撃破する。そうした攻守の使い分けとバランスが、勝負の帰趨を決することになるでしょう。