ブタジエンというガスについて
ブタジエンの原料は何か
- CH2=CH-CH=CH2
- 合成ゴムなどの原料。ナフサ分解で副生するBB留分から得られる。気体。(石油化学協会(2020)『石油化学工業の現状』)
- BB留分とは
- 『新版石油化学プロセス』(2018年)によれば、分解炉でのブタジエンの収率はナフサを原料とした場合4.9%(エチレン29.8%)、エタンの場合1.1%(エチレン40.0%)。ナフサの場合、ブタンは0.3%、ブテンは4.2%、ちなみにC5は2.3%。(ここまで全てvol%)。
- 一般的なナフサクラッキングベースのエチレンプラントでは, エチレンの生産量に対しておおむね4~15%のブタジエンが得られるとされている。(Ibid.)
- C4炭化水素とは(ACC(2019)"2019 Guide To The Bussiness Of Chemistry")
- 4つの炭素原子を含む炭化水素。ブタン、ブテン、ブタジエン、ブチレンを含む。
- ブタンはC4H10。
- ブタジエンはC4H6。
- ブテンはC4H8。ブチレンもC4H8(区別しない場合の方が多い)。
- 4つの炭素原子を含む炭化水素。ブタン、ブテン、ブタジエン、ブチレンを含む。
- (ブテンについて)化学式はC4H8。炭素数4の脂肪族鎖式不飽和炭化水素。ブテンともいい,3種類の構造異性体がある。常温・常圧下では気体だが,加圧または冷却によって比較的容易に液化する。反応性に富む。
ブタジエン原料のトレンド
産業構造審議会産業技術環境分科会研究開発・イノベーション小委員会評価ワーキンググループ(2019)『高効率な石油精製技術に係る研究開発支援事業技術評価報告書(中間評価)(案)』から下記引用。
ブタジエンは、現状ほぼすべてがナフサを原料とするエチレン製造装置(ナフサクラッカー)の副生物として製造されている。そのためブタジエン供給は、エチレン製造装置の動向に大きく左右されるが、近年新設されるエチレン製造装置は、世界的にナフサに対し安価な天然ガスやシェールガス中のエタンを原料とするエチレン製造装置(エタンクラッカー)にシフトされつつある。
一方でブタジエンの観点から見ると、エタンクラッカーにおいてはエチレン以外の化学品はほぼ副生されないため、ブタジエンは製造されない。そのため、エチレンに比べブタジエン供給比率は相対的に低下している。
・・・・・・エチレン製造装置の原料はエタン等にシフトするなど多様化しており、相対的にナフサを原料とするエチレン製造装置の比率が減少傾向にあることから、ブタジエンの需要に比べて、ブタジエンの供給能力の伸びは相対的に低下し、一時的な市況価格の変動はあるものの、将来的なトレンドにおいて、ブタジエンの需給ギャップは拡大するものと見込まれる。
ブタジエンの目的製造に用いる原料としては、ブタジエンと同じ炭素数4の留分(C4留分)を用いることが最も効率的である。C4留分は製油所の常圧蒸留塔(トッパー)の他、重質ナフサの接触改質装置(リフォーマー)や重油の流動接触分解装置(FCC)などから副生される。
C4留分のうち、イソブテンはメタクリル酸メチルやETBEなどの原料として使用され、ノルマルブテンもメチルエチルケトンやエチレンとの不均化によるプロピレン製造用の原料として使用されている。また、イソブタンはノルマルブテンと反応させることでアルキレートガソリンへ転換される。しかしながら、ノルマルブタンは蒸気圧調整を目的としたガソリンへのブレンドや、燃料用途としての利用に限定されている。ノルマルブタンを燃料の観点で見た場合においても、シェールガス生産の拡大により原油対比のガス価格が低下傾向にある中、原油由来のブタンよりもLNGを調達する方がコスト的に優位となる可能性がある(図4)。
製油所において、ブタンなどのガス燃料が余剰となると、製油所運転に制約が生じ、原油処理や分解装置の稼働を低下させなければならない環境となる可能性がある。そこで、将来余剰が見込まれるブタンを原料にブタジエンを目的製造することにより、ブタンの高付加価値化が実現でき、石油のノーブル・ユースを推進することが可能となる。
ブタジエンの特性
- ブタジエンは、2つの反応性二重結合を持つため、特に汎用性の高い化学物質だ。将来的にはブタジエンは豊富な供給量が見込まれているため、安定した価格で供給されると予想されている。 このことが示唆するのは、多くの大手化学企業の研究開発部門では、ブタエンやブタジエンが主要な関心事ということだ。(Smiley, R. A. & Jackson, H. L..(2002)"Chemistry and the Chemical Industry"CRC Press. p.134)
- 日本では、年間約90万トンのブタジエンが生産されており、ほとんどが合成ゴムの原料として使用されている。・・・・・・。欧米では合成ゴム、合成樹脂エラストマー以外にアジポニトリル、さらにその誘導品としてヘキサメチレンジアミンなどの原料として供給されている。
ブタジエン市況
2000年代前半までは,エチレンの生産量の伸びに比べ,ブタジエンの消費すなわち合成ゴムの生産の伸びが小さかったことから,ブタジエン価格は低く抑えられていた. しかしながら2000年代中ごろから新興国経済の成長による需要の拡大および中東・米国でエタンクラッキングベースのエチレンプラントの増設が続いたことなど2)から,ブタジエン不足懸念が高まり2010年代前半にかけて価格が急上昇し、トン単価3000ドル超の高値をつけた。2013年ごろになると、中国経済の減速懸念からブタジエン価格の高騰は落ち着いてきたが、急激なブタジエン価格の変動に対応するため,各社でエチレンプラントの稼働状況にブタジエン生産量が左右されるブタジエン抽出法を補完することができるブタジエン直接製造法の開発が進められている。(『新版石油化学プロセス』(2018年))
首尾よく再編が進んだとしても、一部の川下業界へマイナス影響が及ぶことがあるかもしれない。たとえば、エチレン生産の際にできるタイヤ原料のブタジエンに関しては、将来的に不足が生じることが懸念されている。
タイヤの生産は増えており、合成ゴム各社はすでに、タイやシンガポールにエコタイヤ向けの工場を新設している。今後はそうした海外シフトが一層進みそうだ。
ただし、こうしたケースは一部に限られる。これまでは市況が低迷しても我慢していれば回復してきた歴史があるものの、「一息ついてそのままにしておくと、後々大変なことになる」と、経済産業省の茂木正化学課長は警鐘を鳴らす。 (『週刊東洋経済』「経産省が促す「石化再編」、その狙いとは?」2014年11月22日号)