利益相反とは

辞書的定義

Oxford Dictionary of English

  • conflict of interest. 名詞. ふたつの異なる立場の関心や目的が両立できない状況:選出された議員と企業のロビイストとの間の利益相反*1
    • ある地位にある人が、彼らの公的な能力においてなされる行為や決定において、個人的な利益を引き出そうとする状況。: ワトソンは、利益相反の可能性についての疑念の後に、自分の仕事を辞めた*2
  • integrity 名詞 [不可算名詞] (1) 正直で強固な道徳的原則を持っているという質。例:完全なインテグリティを持つ紳士。(2) 完全であり分割されていない状態。例: 領土的なインテグリティと国家の主権を維持する
    • 構成において、統一されており健全であるという条件。例:小説の構造的インテグリティ
    • [古語]電磁気的データにおける内的整合性や破損の無い状態。例:[修飾語句として]インテグリティをチェックしています*3

スーパー大辞林

  • りえきそうはんこうい【利益相反行為】. 当事者の間で利益が相反することになる法律行為。後見人が被後見人から財産を譲り受ける場合など。法は,公正の見地から,一方が他方を代理すること,一人が双方を代理することを禁ずる。*4

百科事典

科学・技術・倫理百科事典

  • 利益相反. Conflict of Interest. 利益相反とは、ある人格(それが個人であれ企業であれ)が1つ以上の決定に対して特定の関係をもっている状況のことである。そのような人格は、技術者や科学者、あるいはそれらの組織である場合が多い。標準的な見解として、ある人格が①相手との関係においてその相手のために判断を行う必要があり、②そのような判断を適切に行うことを阻害するような(特別の)利害をもっているのであれば、そのような場合にのみ、人格は利益相反をもつことになる。 *5
    • ここでの必須の用語は、「関係」、「判断」、「利益」そして「適切な行為」である。
    • 関係とは、まったく一般的に、ある目的のために相手に依存しているような、人や組織の間のあらゆるつながりのことである。[…].しかし、そこで必要とされる関係は、他人のサービスについて判断を行うための信認義務を負わなければならないものである。すなわち、ある人がその相手を正当に信頼できる(あるいは、少なくとも信頼する視覚が与えられている)ようにしなければならない。
    • 判断が必要とされるところでは、その決定はもはやルーチン的ではない。判断は、不足の事態に備えるための、知識、技能、洞察を伴っている。[…]. よき科学者や技術者をかたちづくるものは、よき科学的・技術的判断である。
    • 利害関係は、その人が不的確であるとするものではないが、影響力や忠誠、関与、情動など、その人の判断の信頼性を(その状況では)通常よりも低下させがちな状況に特徴的な事例にかかわる。
    • 判断の適切な実行を構成しているものは「社会的事実」、すなわち人がふつうに期待していることや、判断を行う人やその所属集団が他人を招くことで期待していること, […]など、それぞれに応じて定められるものである。適切な判断とは何かという問題はこのように構成されているため、それは時間によって変化し、どこに境界があるかについては論争が絶えない。
    • 利益相反の何が悪いのだろうか。利益が相反するということは悪いことではない。しかし、相反することを何か行うのは、次の3つのうちの1つの理由から悪いといえるだろう。
      1. 第一の場合は、判断を行う人物が利益相反について対応することに無頓着な場合である。社会的には、他人の代理となって行動する人は、自分の限界が明確であるときには、その限界を知っていることが期待される。
      2. 第二の場合は、判断を行うためにある人物を正当に信頼している人たちが利益相反の存在を知らず、その人物はその人たちが知らない(あるいはそのはずだ)ということを知っているとき、その人物がその人たちに対して、問題となっている判断を実際にそうであるようりも信頼性が高いと信じさせ、欺くような場合である。このような詐欺行為は、その人たちの(適切になされた)信頼への裏切りであり、倫理的に望ましくない。
      3. 第三の場合は、判断を行う人物が、判断に利益相反が存在しているにもかかわらず、その判断を信頼している人に対して情報を与える場合でありその判断は通常そうであるよりも信頼性に欠けるであろう。
      4. 利益相反には、それが倫理問題ではなくなった後でさえ、評判に影響を与えるような形式的な問題が残っているのである。
    • 利益相反について何がなせるのだろうか。1つのよく知られた答えは、[…]、あらゆる利益相反を回避せよというものである。この答えは次の2つの誤りのうち、少なくとも1つに依拠している。1つは、あらゆる利益相反が実際問題として回避できると考えられていることである。[…]。もう一つの誤りは、回避することが利益相反への唯一適切な対応であると考えることである。 実際は、少なくともほかに、逃避、情報開示、管理という3つの選択肢があり得る。
      • 逃避は、その相反を終わらせるものである。
      • 情報開示は、十分に完全である(そしてそのように理解されている)場合でさえ、ある人物の判断を信頼している人たちに利益相反へのインフォームド・コンセントを与え、その人物を別の人物に交代させるか、あるいはもう少し過激でない(セカンド・オピニオンを求めるといったような)方法で信頼性を調整させるものである。そのような情報開示は利益相反を終わらせることはない。それはたんに、信頼への裏切りを回避するものである。
      • 管理は、しばしば(上記のような)情報開示の後に到達する解決策であるが、情報開示に続くものである必要はない。情報開示が([…])不適切であったり([…])不可能であったりする場合には、管理は合理的な選択となるだろう。
    • ただ1人の主人をもつことは、利益相反を回避する戦略ではあるが、その概念から利益を除外してしまう戦略でもある。社会は、利益相反を避けることが実質上不可能であるときにのみ、あるいはすべてを避けることがあまりに社会的に不効率であって回避はしばしば望ましくないものであるという一般的な了解があるときにのみ、利益相反について考慮すべきである。

ガイドライン

全米医科大学連合

  • 科学における利益相反という用語は、研究者(investigator)が研究をなしたり報告する際に、金銭的もしくはその他の個人的な考慮がその人の判断の信用を傷つけるかもしれない(compromise)、もしくは信用を傷つける外見(appearance)を持つかもしれない状況を指す。そうしたコンフリクトの与える可能性のあるバイアスは、データの収集や分析、解釈だけでなく、スタッフの雇用、備品の調達、結果の共有、プロトコルの選択、そして統計的な手法の使用にも影響を与える。また、利益相反は、その他の学術的な義務に影響を与えるが、人間の健康においてそうしたコンフリクトの持ちうる影響の[大きさ]ために、生物医療(biomedical)と行動科学(bahavioral)の研究において特に考慮することが重要である。*6

文部科学省利益相反ワーキング・グループ報告書

  • 産学官連携は教育・研究の成果を社会貢献に活かすための一形態であり、大学が産学官連携を通じて研究成果の社会還元を進めることは、大学がその存在理由を明らかにし、大学に対する国民の理解と支援を得るという観点からも重要である。
    • しかし、真理の探究を目的とし、人類共有の財産とするための研究成果の公表を原則とする大学と、利益追求を目的とし、営業上の秘密を競争の源泉の一つとする企業とは、もとよりその基本的な性格や役割を異にしている。産学官連携を進める上では、大学や教職員が特定の企業等から正当な利益を得る、又は特定の企業等に対し必要な範囲での責務を負うことは当然に想定され、また、妥当なことである一方で、このような両者の性格の相違から、教職員が企業等との関係で有する利益や責務が大学における責任と衝突する状況も生じうる。このような状況がいわゆる「利益相反(conflict of interest)」といわれるものである。*7

臨床研究の利益相反ポリシー策定に関するガイドライン

  • 一方、産学連携活動が盛んになればなるほど、公的な存在である大学や研究機関等が特定の企業の活動に深く関与することになり、その結果、教育・研究という学術機関としての責任と、産学連携活動に伴い生じる個人が得る利益とが衝突・相反する状態が必然的・不可避的に発生する。こうした状態が「利益相反(conflict of interest:COI)」と呼ばれるものであり、この利益相反状態を学実機関が組織として適切にマネージメントしていくことが、産学連携活動を適切に推進する上で乗り越えていかなければならない重要な課題となっている。*8

単著

新谷 (2015)

  • 利益相反とは、簡単に言うと、責任のある地位についている者の個人的な利益と職務上の責任が衝突している状況をいう。別のいい方では、公職にある者や企業の幹部などが、自分の職務上の行動や影響力によって個人的利益を得るかもしれないことを指しているともいわれる。*9

論文等

M. Davis (2001)

  • 利益相反とは、ある人格P(個人か法人かにはかかわらず)が、ひとつ以上の決定に対する特定の関係において置かれる状況である。標準的な見解では、Pが利益相反を持つのは、以下の場合、その場合のみである。(1)Pを要請する相手の人に、その相手の代理で判断を行使する関係性の中にPはおり、そして、(2)Pが関係性において判断の適切な実行に干渉する傾向のある(特別な)利益を持つ、これらの場合のみである。標準的な見解において、決定的に重要な用語は、「関係性」、「判断」、「利益」そして「適切な実行」である。
    • …要請される関係性は、受託的でなければならない:つまり、それは彼女に対して何かをなす–彼女の業務において判断を実行する–ために相手を信頼する(あるいは、すくなくとも、信頼の権原を持っている)ひとつの人格にかかわらねばならない。 *10

J. Boartright (2001)

  • 多くのことが利益相反の定義について書かれているが、様々な定義をめぐる論争における問題は、金融サービスにおける相反の理解についてほとんど何も生みださなかった。作業用の定義としては、以下で十分である:個人や組織が他の立場の利益のために行為する倫理的義務または法的義務を持つ場合に、私的利益(a personal interest)や組織的利益が、その相手の立場の利益のために行為する個人や組織の能力に干渉するとき、利益相反は生じる。他者の利益に奉仕する付随的義務とともにある行為者と受託者という広く遍く役割のために、利益相反は金融サービスにおいて内在的である。*11

T. Carson (2004)

  • それを十分に擁護するように装うこと無しに、利益相反概念の私自身の分析を簡潔にスケッチさせてほしい。利益相反があるためには、以下の条件が満たされなければならない:
    1. 役職や立場を保持する観点において他の立場(P)に対する義務を持つ個人(I)がおらねばならない、
    2. IPに対する彼女の義務の遂行することが損なわれたり妥協を強いられたりせねばならない、
    3. IPに対する義務の遂行が損なわれたり妥協を強いられたりする理由が、Pに対する彼女に義務を遂行することと両立不可能である(あるいは彼女に対して両立不可能なように見える)利益を、彼女が持っているというものでなければならない。
  • 条件2と条件3は幅広く解釈される必要がある。Pに対するIの義務を彼女が遂行するのを難しくするどんなものも、また、Pに対する彼女の義務に妥協を強いるどんなものも、条件2を満たす。
  • 条件3を満たす種類の利益は、自己中心的な利益、e.g. 金をもうける、自分の評判を強化する、また他者の敬意を勝ち取るというものでも、あるいは、他の個人の利益を促進したり損害を与えるものを希望するものでも、どちらでもよい。*12

A. Stark (2005)

  • 利益相反とは、私がこの用語を用いる際には、ある専門職や、より特定的には医療実践者(a medical practioner)や医療研究者が、主人(principal)に対する彼女の専門的で信託的(fiduciary)な責務(obligation)を実行する時に彼女をそこないうる(impair)利益を所有する場合に、生じるものである。「主人」という語によって、医療実践の場合には患者を意味し、医療研究の場合には、公衆(the public)を私は意味している。ここでの目的では、私は「信託的」という用語を法学的な意味で用いているのではない。「信託」や「信頼」(trust)責務という語によって私が意味するのは単に、コミットメントや献身という高められた義務、ある専門職の役割に就く際に一般的な人が想定する個別の主人に対する義務、つまり、私たちが想定するどんな役割にもかからず、誰に対しても生じる日常的な道徳的責務を越えた(beyond)義務である。私はここではRodwin(1993, p.184)の伝統において動いており、Rodowinは医者について「『患者のために行動するという医療のエトス』の利益が信託的理想を体現している」と述べている。;そして、Witt and Gostin (1994, p.538)の伝統においても動いており、彼らはバイオメディカルの研究者の「公衆に対する信託的義務」について語っている。*13

*1:Oxford Dictionary of English

*2:Ibid.

*3:Oxford Dictionary of English

*4:広辞苑

*5:デーヴィス, M. 2012: 夏目賢一訳. 「利益相反」『科学・技術・倫理百科事典』2304–2306. 丸善; Davis, M. “Conflict of Interest”. Micheal, C. (ed.) Encyclopedia of Science, Technology, and Ethics. 2006.

*6:Association of American Medical Colledges. (1990). Guidelines for Dealing with Faculty Conflict of Commitment and Conflicts of Interest in Research.

*7:文部科学省(2002)「利益相反ワーキング・グループ報告書」科学技術・学術審議会、技術・研究基盤部会、産学官連携推進委員会、利益相反ワーキング・グループ

*8:臨床研究の倫理と利益相反に関する検討班. (2006). 臨床研究の利益相反ポリシー策定に関するガイドライン.

*9:新谷由紀子. (2015). 『利益相反とは何か : どうすれば科学研究に対する信頼を取り戻せるのか』. 筑波大学出版会. はしがき.

*10:Micheal Davis, “Introdction,” in M. Davis and A. Stark, Conflict of Interest in the professions, 8.

*11:John Boatright, “Financial Services,” in Davis and Stark, Conflict of Interest in the professions, 219.

*12:Thomas Carson, “Conflits of Interest And Self-Dealing in the Professions: A Review Essay,” BUsiness Ethics Quarterly (14) 1. 2004.

*13:Andrew Stark “Why Are (Some) Conflicts of Interest in Medicine So Uniquely Vexing?” in Conflicts of Interest: Challenges and Solutions in Business, Law, Medicine, and Policy, eds. Don A. Moore, Daylian M. Cain, George Loewenstein, and Max H. Bazerman (New York: Cambridge University Press, 2005), 152-153